「羽倉賞」は、表技協の創設者であり、3D立体映像、ホログラフィ、VRなどの最先端表現技術の研究・普及に多大な功績を残された故羽倉弘之氏を称え、表現技術の質を高め広く普及に貢献する目的で、2017年に創設されました。分野を問わず最先端の表現技術を活用した取り組みを通して社会に貢献した作品を顕彰しています。今回は、昨年の第2回羽倉賞では力作を応募いただいた受賞者の皆様にお集まりいただき、改めて、作品についてのご講演いただくと同時に、本年実施の「第3回羽倉賞」も紹介いたしました。
講演会は表技協会長の長谷川章氏による挨拶で幕開け。受賞者による各講演では、専門的な観点やビジネス的な切り口など様々な質疑応答が交わされました。ネットワークパーティーにも多くの方にご参加いただき、受賞者、参加者の皆様の間で、業種と分野を横断しての最先端表現技術についての情報・知見交換の有意義な場となりました。
第3回羽倉賞の募集要項は、表技協HPにて7月に公開予定ですので、ぜひともご覧ください。
富山市立科学博物館プラネタリウムで実施された第1回全天周コンテンツコンテスト(表彰式2016年11月、上映会2017年12月)の作品を紹介。
「どんぶりdeプラネタリウム」は、発泡スチロール製の丼型容器の内部を半円球のキャンバスとして、ポスカなどの水溶性マーカーを使って絵を描き、これを魚眼レンズで撮影してプラネタリウムのドームに投影することで、簡単に全天周画像を生成するもの。手軽な素材を使ってこどもでも簡単に作れる点や、プラネタリウムが身近なアートデバイスとなり、誰でも参加可能なイベント製品になりえること、事業展開の可能性もあることなどが高く評価され、羽倉賞を受賞しています。この講演では、ワークショップにおいて、フルドーム(全天周)画像を簡単に作成できるように導いた試行錯誤の過程も交えて、紹介しました。手軽にできるのがメリットではあるものの、プラネタリウムという場所性の限定があるため、今後は場所を選ばずどこでも体験できるように、ヘッドマウントディスプレイと360°カメラの活用を考えているとのことです。
ToF(Time of Flight)方式による3D奥行きセンサが搭載されたスマートフォンと紙製ゴーグルを用いて浸水や火災による煙の発生状況を現実風景に重ね、CGで表示し没入体験できる「AR災害疑似体験アプリ Disaster Scope」は、地面からの高さ位置情報を精密に取得できると同時に、周囲の物体の3次元形状も認識できる。「いかに危機感を抱かせて行動につなげてもらうか」という課題を解決する手段として、AR投入型疑似体験を伝達方法とすることで「見える化→体験化→経験化」を実現しており、実際にこどもも含めた多くの体験者が被災リスクを正確にイメージし危機感を実感できるデバイスとして、全国様々な場所で活用されています。今回の講演では、その実際の様子についても動画や写真で紹介し、実用例およびその評価、新たなデバイスの模索も含めた今後の課題についても触れました。
エクスペリエンスウォールは、高さ2.7m幅10mで高精細・高輝度のワイド8Kディスプレイ。本公演では、この制作にあたってのポイントやエピソードについて改めてご紹介いただきました。まず、ディスプレイに見せない工夫により空間と調和させること、8Kレベルに見合ったコンテンツ制作について言及。次に、8Kカメラで撮影するとデータが重たくなり過ぎて扱えないため、4Kカメラ3台でブレンディングを行うという工夫を説明しました。その他、次世代ショールームNIPPON GALLERY TABIDO MARUNOUCHIなど進行中のさまざまなプロジェクトの紹介と併せて、様々な先端技術やシステムを統合する技術について紹介しました。
本作品は最先端のBRDFプリンティング技術の一つで、複数の異なる方向からある領域を見たときにそれぞれの方向に異なる画像を呈示するような表面加工法を開発し実現したものです。今回の講演では、制作に至った経緯やモチベーション、開発手法についてのアナログな作業を含む試行錯誤などを改めて紹介されました。最初にコンパスカッターとアクリルシートを使った自作を試み、続いてNC切削機を使った手法に挑戦。この過程での課題を解決する手法として、UVプリンタで凹凸形状を構成し可視領域を制御する方法を編み出すまでの流れを、制作例を交えて説明しました。
境港市建設部 灘英樹様/ユー・プラネット代表取締役 栗原裕様/LEM空間工房 代表取締役 長町志穂様
2018年夏に完成した本プロジェクトは、照明学会「2019年照明デザイン賞 最優秀賞」を受賞。この講演ではリニューアル後の経過や効果等も含めて改めて振り返りながらご紹介いただきました。約800mの歩道に沿って177体のブロンズ彫刻を再配置し、妖怪影絵や音と光の演出による様々な公共照明の手法・効果が取り入れられている様子を説明。公共道路空間に新たな魅力が付加され、昼のみならず夜間の集客も得られた結果大幅な観光客増となったということでした。また、関係者が多い中で「VRで未来に連れて行ってみんなの合意を得ること」の有効性についても強調されていました。
本作品は、遠隔地に置いたTwinCamからのリアルタイム映像を体験者のHMDに表示すると同時に、体験者が頭を動かしてぐるっと見回し、TwinCamを回転するとその方向の立体視が可能となるシステムです。これにより被写体のブレや反応時間が低減でき、操縦者と同じ行動状態の視点で遠隔地を観察・体験することができます。講演では、この装置の開発について、映像通信系(TwinCamシステム)のシステム構成、移動機系(セグウェイ)の仕組み、回転座席の調整方法の3つのパートに大きく分けて解説しました。